シビレは神経の危険信号(シビレとは?)
2012/09/01
手や足の「シビレ」症状に悩まされている方は症状を感じてから、正確な診断がされるまでに、たくさんの医者をまわったり、余計な治療を受けたり、放置されているのを多く見てきました。なぜ、こうした状況が生まれるのかというと、手足に「シビレ」をきたす病気には、たくさんの原因があって、ある病気は、脊髄に原因があったり、またほかのものは内科の病気が原因であったり、古い骨折が原因であったりと、その原因がいろいろな科にわたっているために、いわゆるシビレの専門家がいないということがあります。
また、「シビレ」はあくまで患者さまの自覚的な訴えによるものですから、他人には、とらえられないものであるということも災いしています。風邪などとは違い他人から見てわかるものではありません。こうして、「シビレ」を抱えながら、患者さまたちは、我慢の生活を余儀なくされているのが現実のようです。
そこでこの連載では患者さまに自分の症状はどんな病気が原因なのかを考えるきっかけとなるよう、病気の解説や治療についてご紹介できればと思っています。
「シビレ」という言葉は、あまりに多くの症状を示しているため、神経を専門とする医者はカルテに「シビレ」という言葉を絶対に書かないように教育されます。人によっては、ジンジンした感じを「シビレ」と言いますし、麻痺して感覚のなくなったのを「シビレ」と訴える人もいます。ひどい場合には、運動麻痺すら「シビレ」と表現されます。ここで扱おうとしている医学症状・病気の「シビレ」とは、正座の後のような、ジンジンとした感じのことを言いたいと思います。
さて、正座をするとどうしてシビレるのでしょうか?実のところ、驚いたことにこの辺のことはよく分かっていないのです。手足の感覚を脊髄・脳に伝える神経にはいろいろな太さのものがあります。おおまかには、細い神経が痛みや温度を、太い神経が感覚・圧覚・関節位置覚を伝えています。恐らくは、太い神経は酸素不足に弱く、血液がいかない状態にすると、うまく情報を脊髄に伝えられなくなります。酸素不足に比較的抵抗する細い神経が異常に興奮して、ジンジンした感じを脊髄に送っているものだと思われます。筋肉に指令を送っている運動神経も比較的太く、酸素不足で麻痺します。ですから、急に立ち上がろうとしても、足がどこにあるのか分からず、力も入らず、転んでしまうのです。
このようなジンジン感は、手足の神経の酸素不足で起こる場合だけではなく、局所的に神経の絶縁がうまくいかないときにも起こります。一本一本の神経繊維はとても細いものですが、手足の神経は、これが束になって、鉛筆より少し細い程度の太さがあります。神経繊維はそれぞれ、ミエリンというワックスのようなものでぐるぐる巻きになって髄鞘(ずいしょう)に被われて、さらに神経内幕に被われ、お互いに絶縁されています。神経の興奮が伝わるには、たいへん複雑なメカニズムが働いているわけですが、その本体は電気的な興奮です。これがお互いに絶縁されていないとたいへんなことが起こってしまいます。神経に障害があると、それも完全に死んでしまっているのではなく、中途はんぱな状態にあると、その場所の絶縁がうまくいかず、一本の神経繊維の興奮が、ほかの神経繊維も興奮させてしまい、パニック状態となってしまいます。
神経繊維が完全に損なわれていると、このようなパニックは起こらず、ジンジンした感じは起こりません。感覚がなくなってしまうだけです。したがって、このジンジン感は、神経繊維が「もうすぐヘタバルゾ!」とサインを送っていると言えましょう。
このサインは生体の防御反応と考えられます。サインが出ているうちに治療すれば、その回復は期待できますが、神経が変性して感覚がなくなってからでは治療は難しくなります。ジンジンしているうちに治療を開始しましょう。適切な治療のためには正確な診断が絶対に必要です。
出典 | : | 橘滋國『シビレを感じたら読む本』、講談社、2012 p.5-7、13-27 |
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脊椎脊髄外科顧問 橘 滋國